田中研究室の研究領域

Key Words:振動応用,エネルギー加工,生産システムの効率化

研究概要の紹介

金属と樹脂とを複合した高剛性・高減衰なパッシブダンパ「P-DACS」の開発

機械システムや建築構造物の剛性と振動挙動を制御する

 機械システムの高度化に伴い,微小な振動が問題となっています.例えば,工作機械や産業用ロボットで生じる振動は加工精度や位置決め精度に悪影響を及ぼし.自動車で生じる振動は乗り心地を悪化させ,柔軟宇宙機の弾性振動などは機体の制御を困難にしています.また,建築構造物では,卓越周期の異なる様々な地震動によって破損や破壊が生じてしまいます.これら,振動が問題となる課題を解決するためには,振動抑制技術が不可欠となります.

 従来の振動抑制技術では,柔らかい減衰材料(樹脂やゲルなど)を付加することで振動減衰性を高めてきましたが,剛性が低くなってしまうことが難点でした.また,チューンドマスダンパやアクチュエータを用いたアクティブ制振装置は,チューニングや設置が困難であったり,設備費が高くなるという難点があります.

 本研究では,特殊な剛性設計を施した金属構造体に高い振動減衰性を有する高分子材料を複合した,革新的なパッシブ構造体ダンパ技術(P-DACS, Passive-Damper with Anisotropic Composit Structure)の開発を行っています.このような複合構造体を形成することで,高分子材料の減衰性能を最大限に高めることができます.また,ダンパの用途や設置条件によって剛性や振動減衰性を広範囲にチューニングすることができるため,高剛性タイプや,高減衰タイプ,剛性と振動減衰性のバランスをとったバランスタイプなど,さまざまに設計することができます.

 現在は,P-DACSの設計指針の構築や性能評価,実用化に向けたアプリケーション開発を実施しています.

金属構造体

高分子材料

P-DACS

開発中のダンパの構成

金属構造体の振動挙動と

高分子のひずみエネルギー分布の解析例

比剛性及び減衰のチューニングレンジ

転がり機械要素の転動体接触部特性を考慮した機械システムの動解析システムの構築

転がり案内(左)と試作評価装置(右)

転がり案内の周波数応答関数

Translational mode

Pithcing mode

転がり案内の非線形な固有振動モード

振動特性の解明を解明し,機械システム設計を高能率化

 近年,ものづくりの低コスト化や短納期化に伴い,安価に高速かつ高精度な相対運動を実現できる転がり機械要素が普及しています.代表的な転がり機械要素には,ボールねじ,転がり軸受,転がり案内があります.機械システムを実現するうえで,転がり機械要素は不可欠なものとなっています.

 転がり機械要素にはいくつもの転動体(ローラやボール)が組み込まれています.これらが回転しながら荷重を支持するため,滑らかな相対運動を実現することができます.しかし,転動体が接触する部分では極めて高い応力が生じ,局所的な弾性変形が生じます.この弾性変形が,機械システムに生じる姿勢誤差の大きな要因となります.また,慣性力や振動的な外力が作用した場合,転がり機械要素の転動体接触部が”ばね”の役割を果たし,長期的に持続する振動が発生してしまいます.この振動は,搬送装置や工作機械の位置決め性能,切削加工時に生じるびびり振動,タービンなどの高速回転体の軸ぶれの原因となり,機械システムの性能を著しく低下させてしまいます.そのため,転動体接触部で生じる物理現象を説明できる物理モデルを構築し,転がり機械要素の弾性変形や振動の発生状況を予測することが,機械システムの設計プロセスを高度化するうえで重要となってきます.

 現状では,転がり機械要素に静的な外力が作用した場合に,各転動体に加わる荷重を理論計算によって予測することはできます.しかし,実験的にそれを検証した事例はほとんどありません.また,動的な外力が作用した場合の転動体の負荷分布の変動や,変動の収まり方(振動減衰性)は全く解明されていません.従来は,これらの未知の部分は経験や暗黙知によってカバーされてきましたが,さらに高度化な機械システムの設計を行うためには,接触部で生じる静的・動的な現象を解明し,設計に役立てることが不可欠となります.

 本研究室では,転がり案内を対象として,その転動体接触部の静的・動的な荷重分布を実験的に直接測定するとともに,そのデータを基にして,非線形性を考慮した接触部の物理モデルの構築に取り組んでいます.接触部で生じる非線形性を考慮することが,設計に応用可能な接触部モデルを構築するためには不可欠となります.また,設計解析(CAE)による転がり案内単体やそれが組み込まれた機械システムの静的・動的な特性予測技術の構築に取り組んでいます.

 

定力制御を可能としたボールバニシング工具の開発

ボールバニシング加工の原理

バニシング加工前後の表面粗さ比較

定力制御バニシング加工を用いた均一な改質層の創成

  機械製品の高性能化及び長寿命化を実現するには,引張強度・疲労強度・耐摩耗性・耐腐食性など様々な機械的性質を高める必要があります.このための加工法として,高硬度の工具を押し付けることで,通常の機械加工された工作物表面上に存在する微小な凹凸を塑性変形させて,平滑な表面を得るバニシング加工法があます.この方法により,表面粗さを改善できるほかに,材料表面に加工硬化層,圧縮残留応力層などを与えることができます.道路工事現場で見かけるロードローラの金属加工バージョンとなっています.

 バニシング加工により得られる表面改質層の表面粗さ,硬度,残留応力などの表面の性質は様々の要因に左右されますが,その中で最も重要なパラメータはバニシング力です.従来のバニシング工具の多くは内蔵されたバネでバニシングピンを保持し,バネに与える予圧を調整することにより,被加工物への押込み力を決定していますが,バネの性能や被加工面の形状により,バニシング力が不安定であるので,均一な改質層を得ることが困難でした.

 本研究では,バニシング加工の定力制御に注目し,バニシング力をインプロセスで制御可能なボールバニシング工具の開発を提案しました.さらに定力バニシング加工することにより,均一な表面改質層の創生を実現することを目標としています.

 これまでのバニシング加工では,加工が始まる前にバニシング力を設定する必要がありましたが,本研究で開発するオンマシンバニシング力制御システムを利用することで,加工中のバニシング力を連続的に調整することが可能となります.これを用いて,自由曲面など複雑な表面を有する被加工物に対してもバニシング力をリアルタイムに補正する方法の確立を試みています.

力制御可能な新バニシング工具設計

次世代のものづくりにおける自動工程設計システム

自動工程設計の概念図

複合加工機のための工程設計の一例

マスカスタマイゼーションに対応するCAD/CAMシステムの構築

  近年,ドイツのインダストリー4.0を体表としたIoT(モノのインターネットInternet of Things)の普及および製造業のグローバル化に伴い,我が国のものつくり産業に従来以上の国際競争力が求められています.従来のように同じ製品を大量生産するではなく,一人ひとりの要求を満たすため,ユーザカスタマイズされた製品を短時間,低コストで提供できるマスカスタマイゼーションの需要が高まっています.

 現在のCAD/CAMシステムでは,オペレータがCADデータに基づいて,設計者の設計思想を解釈しながら,加工するために必要な情報をCAMソフトウェアに入力し,NC工作機械を動かすためのNCプログラムを計算しています.しかし,同じ製品の作り方でも,加工方法,加工工具,加工順序,加工条件,加工ジグなどの組み合わせが無限にあるので,製品を効率的に加工するためには,CAMオペレータの知識と経験に基づいて,加工シミュレーションを繰り返しながら工程設計を行う必要があります.大量生産では,加工データを一回作成すれば,同じ部品をいくらでも作れますが,マスカスタマイゼーションの場合は,1種の部品の製造数が少ないため,製造リードタイムに占める加工データの作成時間を短縮しなければなりません.

 このような問題を解決するために,当研究室では,生産技術のノウハウをデーターベース化し,コンピュータグラフィクス分野の特徴認識技術や,人工知能(AI)分野の組み合わせ最適化技術を活用することにより,人間の代わりに,CADデータから,加工フィーチャの認識,工作機械の選定,加工方法の決定,加工順序の決定,加工工具の決定を自動的に行えるCAPP(Computer Aided Process Planning)システムの構築に取り込んでいます.これらが実現できるようになれば,CADモデルのみを元に,全てソフトウェアに任せてNC加工データを完全に自動生成できるCAMが実現できます.

 

過去の研究テーマ例

<摩擦及び振動現象に関する研究群>

・直動転がり軸受の非線形摩擦特性が送り駆動機構の減衰能に与える影響

・案内方式の違いが移動体の振動特性や摩擦特性に及ぼす影響

・粗さ接触面における接触部直接観察による高荷重摩耗特性評価

<レーザ加工に関する研究群>

・レーザ加工機を用いたチタンへの発色加工に関する研究

・レーザフォーミングによる細線三次元ワイヤ構造物造形

・エキシマレーザアブレーションによる高分子材料の3次元形状の創成

<多軸加工に関する研究群>

・8軸ロボットを用いた 自動加工システムの構築

・極座標型デスクトップマシンツールによる計測と加工

・6軸パラレルワークテーブルの誤差補正と加工精度に関する研究

<CAD/CAM、リバースエンジニアリングに関する研究群>

・NURBS曲面の分割による高効率加工パスの生成

・点群データを用いた特徴抽出による高精度な位置合わせ

・自由曲面加工のための一定のスキャロップ高さのツールパス作成

<加工工程設計、生産スケジューリングに関する研究群>

・三次元形状モデルからの加工工程自動決定システムの開発

・生産現場における外乱発生時のリスケジュール

・自律分散システムを用いた堅牢な生産スケジューリングシステム

 

  この他にも多数の研究を実施してきました.

     詳細は,田中までお問い合わせください.

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